目の前の人

Leica M4 / Thambar 9cm f2.2 (Kodak TRI-X 400)
コラム

”人を取材するのが仕事”と語る、ノンフィクション作家の梯(かけはし)久美子さん。

多くの出会いの中で最も心に残る一人に、クイズ番組の司会者などでも活躍した、俳優の児玉清さんを挙げた。

 

梯さんの著作の刊行を記念する対談でのこと。

児玉さんは付箋だらけのゲラ刷りを持って現れた。

そして、どこに心を打たれ、何を考えたのかを一つ一つ語っていく。

梯さんの話にも熱心に耳を傾けながら。

 

その姿に「感謝を通り越して圧倒されてしまった」と梯さん。

印象的だったのは、多忙なはずの児玉さんが醸し出す”あなたのための時間はいくらでもありますよ”という雰囲気だ。

その訳を「目の前にいる相手に、その時の自分のすべてを惜しみなく差し出しているからだと思う」と振り返る。

(『好きになった人』ちくま文庫)

 

人と会っていても、時間や他のことが気になってしまうことがある。

そうした気持ちは相手に伝わるもの。

時間に限りがあるからこそ”目の前の一人”に全精魂を注ぎたい。

 

インドのガンジーは言った。

「何千という人々すべてを見回すことは、必要じゃない。あるとき、一人の命に触れ、その命を救うことができれば、それこそ私たちが作り出せる大きな変化なんだ」

(塩田純『ガンディーを継いで』日本放送出版協会)