吉川英治氏は小説を書く時「希望的である」ということを原則とした。

作家の吉川英治氏は、新聞や雑誌などで、同時に小説の連載を抱えていた時期があった。

雑誌の小説を書いて、新聞小説の執筆に移るのは、頭の切り替えが難しかったという。

 

「ものを書くという仕事は生活を深まさせてはくれるが、同時に、人生を短くするようにも思われてならない」と吉川氏は言う。

執筆に取り掛かると、作品中の人物が夢にまで登場し、睡眠を妨げられることもあった。

小説を書くことは、文豪にとって命を削る”戦い”だった。

氏は小説を書く時、「希望的である」ということを原則とした。

大衆文学を読む人のほとんどは、日々の生活に苦闘している。

そうした人々の心に、希望の火を灯すことを信念とした。

(『吉川英治全集52』講談社)